![]() |
本稿は、雑誌『STUDIO VOICE』(INFASパブリケーションズ)2006年11月号に掲載された「皆既日食とボゼの島:日本の秘境“悪石島”探訪レポ」のオリジナル版です。>>amazon.com |
小学校の社会の時間は、さしずめ旅行の時間である。先生の説明をよそにもっぱら日本地図を開いては、空想の力だけでほうぼうへ旅をしたものだ。網走を見つけては極寒の地で労働を科せられている受刑者の姿を想像し、沖縄を見つけては紺碧の空に生える真っ赤なハイビスカスの景色を想像し……。空想は尽きることなく、子供心を憧れの世界へと連れ出してくれた。しかし、一箇所だけ、想像力では踏みこむことができない禁断のエリアが存在していた。それは、見えるか見えないかくらいの小さな点々と、その脇に印刷された「吐噶喇列島」という奇妙な文字列。誰に聞いてもどんな場所なのかわからず、ブラックホールのような不安を感じていた自分は、大人になるまでそのエリアをなかなか凝視することが出来ずにいた。
2009年7月22日、今世紀最大級・最長6分20秒間の皆既日食を日本でも見られるとのニュースを聞いたときにはまだ、あのエリアでおこることだとは気づいていなかった。皆既日食のルートをネットで調べていくうちに目に飛び込んできたのは、例の「吐噶喇列島」と、さらに毒々しい「悪石島」という文字。一瞬にして幼少の時間軸に引き戻されてしまった私は、次の瞬間さらに衝撃的な写真を目にしたのだ。そこに写っていたものは、もはや日本のものとは言いがたい、南洋の仮面を被った魔物達の姿だった。皆既日食・仮面・悪石島……何かものすごく邪悪な呪文のようにも聞こえる強烈なキーワードに惹きつけられ、とにかくその、旧暦の盆祭りの時期に行われるという、日本有数の奇祭「ボゼ祭り」というものをまずは見に行ってみようと思い立ったのだった。› 続きを読む
INFASパブリケーションズ刊